オオサンショウウオの保護に尽力
司会
まずは皆さんの普段の業務と、近年行っているSDGsに関わるような取組みがあれば教えてください。
岡田
私たちの部局は「生涯学習課」「スポーツ振興課」「文化課」「青少年育成課」の4つに分かれており、生涯学習やボランティア、文化・スポーツの振興に関わること、文化財の保護や活用又、青少年の健全育成について担当しています。今日はまず、全国的に希少となっているオオサンショウウオの保護活動についてお話ししようと思います。オオサンショウウオって、すごく珍しい生き物なんだよね?
山内
はい、世界最大級の両生類で、日本の固有種です。国の特別天然記念物に指定され、ほとんど姿を変えていないので「生きた化石」とも呼ばれています。西日本の山間部の清流に生息していますが、昔と比べて今では見かけることも少なくなってきました。それがこの豊栄町に生息しているということで、すごく貴重なんです。
石垣
現在は人の手で持ち込まれたと思われる、チュウゴクオオサンショウウオと日本のオオサンショウウオが交雑した交雑種の繁殖が心配です。外来種問題はブラックバスやブルーギルなど、ほかの生物でも見られることですが、本来の生態系を大きく変えてしまうので…。
岡田
オオサンショウウオを見つけたらどうすればいいの?触ってもいいの?
山内
観察をするのはOKですが触ってはダメです。許可が要ります。痩せた個体であれば乃美地域センター(オオサンショウウオの宿)で保護してエサを与え、病気がないかなど色々と調べます。怪我をしている場合は安佐動物公園や獣医さんと連携を取って、治療をすることもあります。交雑種の場合も、見つけたら生涯学習部や最寄りの教育委員会に連絡を入れてください。
山内
魚やカニなど、何でも食べますよ。スパッと吸い込む感じで食べます。小さい歯がたくさんあるので、噛まれて動き回られたら怪我をします。産卵時期は気が立っていることも多いですね。オオサンショウウオよりもチュウゴクオオサンショウウオのほうが、気性は荒いんです。
石垣
まぁ、チュウゴクオオサンショウウオの野生は中国にもほとんどいませんけどね。もしいたら大ニュースになるレベルです(笑)。問題なのは交雑種です。
岡田
交雑種って何が問題なの?種が交われば強くなるという考えもあると思うんだけど…。
石垣
日本固有の環境や生態系を守るため、これ以上交雑が進まない様にしなければならないので、残念ながら現状では保護・隔離の対象です。東広島では広島大学の先生方や専門家の方、市民の皆さんと一緒になって、オオサンショウウオを守る活動を続けています。
まちを知りアイデンティティを育む
司会
オオサンショウウオ以外での文化財や自然遺産など、守っていきたいまちの財産は何ですか?それらを通じて得られるものはありますか?
山内
まず守っていきたいのは、酒蔵通りですね。あとは三ツ城古墳に鏡山城跡、旧木原家住宅… 史跡が多いですね。
石垣
令和4年4月に新しく指定された中黒瀬のセンダン(落葉高木の巨樹)もありますよ。東広島市天然記念物ですが、もともと黒瀬小学校に植えられたものが地域に適した種として枝を伸ばし、県内で最も大きいセンダンの木になったといわれています。そういう、背景が見えるのがいいですよね。
岡田
酒蔵の背景としても、やっぱりここが安芸の国最大の穀倉地帯だったということが関係していますよね。「このまちの誇れるものがこれなんだ」って語れるものが文化遺産だと思うんですよ。米作りの変遷については、歴史民俗資料館で学べるようになってますよね?
山内
はい。社会科見学の際に文化課職員が説明するときには、動かせる農機具を特別に試してもらうときもあるのですが、珍しい体験なのか結構喜んでもらえます。
岡田
そういえば、先日、安芸津町の三津小学校の児童が「生涯学習フェスティバル」で三浦仙三郎(広島の酒造りの礎を築いたといわれる酒造家)の歴史を表現で上演してたんだけど、すごい反響だったなぁ。安芸津の人がバスをチャーターされるなど、400人ぐらい「くらら(東広島芸術文化ホール)」にお出でになられた。くららってNHK交響楽団の人が演奏を行った際、「音響が素晴らしい」って絶賛してくれたんですよ。そういうところで、子どもたちが発表を行えるのはすごく意義のあることだと思う。西条小学校では、学校で酒造りの歴史をオペラで演ずる際にオーディションしたんだって。そうやって生徒が立候補して、自主性を育んでっていう質の高い教育を東広島はしてるよね。文化施設、スポーツ施設、図書館などが充実していて、高度な芸術や文化に触れる機会が多々ある。学びの原点があるからこそ、このまちは学術研究都市として発展してきたんじゃないかな。山内君は出身どこなの?どんなまちにいたの?
山内
僕の出身は長崎です。長崎の文化財で真っ先に思い浮かぶのは国宝である大浦天主堂ですね。そのほかにも街のあちこちに洋館があるのですけど、住んでいるころには古びた建物としか思ってなかったなぁ……(笑)。今はやっぱり、それなりに誇らしい気持ちになるんですけどね。
岡田
おっ、やっぱり故郷のことを語る時は目が輝いてるね(笑)。石垣君は?
石垣
僕は広島市の出身なので、知ってほしい遺産っていうと原爆ドームになるのかな。被ばくの歴史や平和について後世に伝えていきたいっていう思いはもちろん持ってるし、そういう“思い”も遺産だと思うんですよね。自分が生まれ育ってきたまちについて、文化財などを通じて知る歴史は、自分のアイデンティティを育んでくれるものだなって感じます。
生涯学習を通じ質の高い教育を
司会
素晴らしい教育環境が整っている東広島ですが、子どもたちと同様に大人にも学びの機会はありますか?さまざまな取組みや施設をどのように活用すればいいでしょう?
石垣
まずは身近な生涯学習の講座など、どんなものがあって、どんな学びが得られるのかを調べてみるといいと思います。何に興味があるのかわかない人は、図書館に足を運んでみるといいかもしれませんね。
山内
資料館などは親子三代で訪れるのにぴったりだと思いますよ。おじいちゃんおばあちゃん世代は、実際に使っていた道具などがあったりすると思うので、話して聞かせることもできると思うし。世代を超えた学びと交流ができると思います。
岡田
交流っていう観点でいうと、例えば豊栄町なら、オオサンショウウオを紹介できる図書館を作りたいと思ってるんですよね。地域の特性を生かした施設を作れば交流人口も増えるし。文化財を巡るウォーキングなんかもいいですよね、中山間地域が抱える課題も一緒にクリアできそう。豊栄町には、生涯学習の活動から生まれた「豊栄かるた」があるんですよ。大人が学び、その知りえたことを子どもに伝える、そういう場から生まれたってことがいいですよね。それから、大人と子どもだけではない、青少年の交流も大事だと思ってます。お兄ちゃんお姉ちゃんが教えると、小さい子ってすごく喜ぶんです。先日、SDGsカードゲームっていうのを講座でやったんですが、最初はゲームのやり方がわからなかった子どもたちも、賀茂北高校の生徒さんたちが楽しそうに教えてたら、どんどんイキイキしてきて。そういう取組みを今後もしていけたらなって思いました。それら生涯学習の場が、SDGsゴールでいうところの「4質の高い教育をみんなに」の達成につながると考えています。
石垣
普段僕は、遺跡の調査とか、わりとゆったりした時間の中で作業を進めてるんです。そういう作業をしながら「この時代の人ってどういう生活をしてたんだろう」とか想像するんですよね。最近の人たちって、ちょっと生き急いでいるというか、すべてが慌ただしいですよね。他者を思う気持ちって、余裕の中で生まれると思っていて。オオサンショウウオについても“守る”っていうより“共存していく”っていう考えにシフトしていきたいんです。(※オオサンショウウオに関して言うと、待ったなしの状態)そういう考え方や生き方を次代につなぐことができたら、SDGsの理念にそった世界をつくることができるのかなって思います。
岡田
学びって、温故知新というか、古きものの中に良いものがあって、その中で時間をかけて必要な知識を得ていくものですよね。けど、なぜか本当に好きなことを学んでいる時って時間が経つのがあっという間(笑)。やっぱりそれって好きだからだし、夢中になれるから。そういう“好きなものと巡り合わせてあげられるか”っていうのが生涯学習だと思うし、その生涯学習の場から、さまざまな交流や幸せが生まれたらいいなと思っています。