農林水産業が抱える問題に焦点
司会
はじめに、皆さんがされている業務内容について教えてください。また、現状抱えている課題にはどんなものがありますか。
鈴木
私たち「産業部」は、「農林水産課」「産業振興課」「ブランド推進課」に大きく分かれており、農林水産業支援や産業支援、観光振興や農林水産物の販路拡大に関することなどを担当しています。野菜や花き栽培に関わる「東広島市園芸センター」も我々の管轄です。東広島市が進める「SDGs未来都市計画」においては、「人づくり」「暮らしづくり」などいくつかの軸があり、私たちの業務は「仕事づくり」に深く関係していると考えています。課題は色々とありますが、その仕事づくりを生むために、人と人や、事業者さん同士をつなげたりすることが重要だと思っています。
松島
東広島には豊かな山も海もあるのですが、保全が行き届いていなかったり、資源が有効活用できていなかったり、担い手不足の問題に悩まされているといった状況があります。これらを解決するためにも、色々な事業者さんとつながることが有効な手立てです。
中村
企業さんの中には私たちにはない知見やアイデアを持っているところがたくさんあります。そういったところの知恵を借りることが課題解決につながっていますね。近年カーボンニュートラルの取組みが求められていて、2030年にはCO2を50%削減、2050年にはCO2排出ゼロにという目標が掲げられています。もちろん東広島市でもカーボンニュートラルの宣言を出しており、さまざまな企業さんが行っている取組みをバックアップしていかねばなりません。例えば国が推し進めている、建物の中でエネルギーを使わないZEB(Net Zero Energy Building)や、首都圏を中心に動き出しているESG(環境、社会、ガバナンスの3つの頭文字を合わせた言葉)の評価制度がまだ浸透していないと感じるので、この部分を積極的に広げていくのも課題だと感じます。
人や企業をつなげ、課題解決を
司会
抱えている課題を解決するため、具体的にどのような取組みをされているのでしょうか。
中村
先ほど言ったZEBやESGに関しては、セミナーの開催や大手企業と地元企業のマッチングを行っています。また、省エネの取組みを進めるため、事業者さんのエネルギー消費が現在どのようになっているのか、現状把握や課題発見のために省エネルギー診断も進めています。こちらは生活環境部が主体となって動いていますが、我々も企業向け支援等のPRに関わっています。今後は、企業さんがこういう取組みをされているよと知らせられるような、情報共有ができるプラットフォームをつくっていきたいです。
松島
冒頭に述べた保全や資源の有効活用についても、色々な事業者さんや市民と連携することが重要です。山だったら間伐材を燃料として使うというような活用法もあるのですが、木を切り出して搬出して…となると、コストがかかり負担も大きくなりますよね。ただ最近では、山というフィールドに関心の高い企業さんが多く、環境保全活動の一環として手入れを積極的に行ってくれているんです。山へ行くと「〇〇の森」など、企業さんの名を冠した看板を結構見かけますよね。ああいったかたちで一部を保有して活用してくださっているので、森林が荒れていくのを防げたり、生育環境の再生を促せています。また、里山に親しむという意味で、「みどりの少年団」の活動も応援しています。これは市内在住の小学校4年生から6年生のメンバーで構成されている団体で、植樹や清掃といった野山への奉仕活動、野営学習などを通じて環境保全や緑化推進に関心を持つことを目的にしています。次代を担う子どもたちの意識を醸成するのもまた、将来的な課題解決につながると考えています。
中村
先ほどの連携の話でいうと、企業さんとつながったことで課題が解決できた事例でもあるんです。近年、海底の汚泥が問題になっているのですが、この海域をきれいにするため、広島大学名誉教授の山本先生が立ち上げた流域圏環境再生センターとマイクロンがタッグを組んで、牡蠣殻を焼成し、海底に散布して浄化するというプロジェクトを進められています。色々な技術を持っている企業さんや大学などが集積しているのは、連携における東広島の強みですね。
松島
農業においても、連携は必須だと思うんです。最初にお話しした担い手不足の解消については若い世代の参入が必要になってくると思うんですが、その若い世代は従来の農業従事者が持っていない技術やアイデアを有しています。例えば近年注目されているスマート農業、これを今後どう取り入れていくかが、農業の効率化や担い手不足解消の一助になると考えています。東広島は米どころとしても知られているので、持続可能な農業のあり方を模索していきたいですね。
鈴木
今日座談会を行っている「ミライノ+」は、人や企業がつながり新しいアイデアが生まれるような、まさにそういう場所だと思うんです。農業従事者の集いもここで行いましたよね。2019年にオープンして以来1000人以上の人に利用してもらっていますが、各種セミナーや講座、ワークショップなど、色々なかたちで活用されています。「イノベーションラボ」と銘打っている通り、ここから今までにない技術革新が創出されることを願っています。
1+1を倍にして目標達成を目指す
司会
最後に、SDGsについて思うことや、目指すビジョンがあれば教えてください。
鈴木
私たちがしていることは、SDGsゴールでいうところの「14 海の豊かさを守ろう」や「15 陸の豊かさも守ろう」にも関わっていると思うし、産業の面でいえば「8 働きがいも経済成長も」「9 産業と技術革新の基盤をつくろう」「11 住み続けられるまちづくりを」に関係してくるとも考えています。もちろん、連携の意味では「17 パートナーシップで目標を達成しよう」にも大きく寄与していると思っています。これからも仕事づくりという軸に重きを置いて、SDGsの理念を取り入れながら、持続可能な農林水産業のかたちを探っていきたいですね。
中村
SDGsって最近の言葉ですが、決して未知のものや舶来の概念ではないと思うんですよ。日本には昔から「買い手よし、売り手よし、世間よし」といわれる近江商人の活動理念を表す「三方よし」という言葉がありますが、この“自分の利益だけではなく、買い手である顧客はもちろん、世の中にとっても良いものであるべきだ”という考えが、風土として根付いていると思うんです。この考えが具現化したものがSDGsだと考える方がしっくりくるというか。企業さんの中には当たり前のようにこの意識が息づき、収益だけでなく、社会課題を自分たちがどう解決していくかを命題にしているところが多くあります。私たちはそういったところと手を取り合って、次のステップにどうつなげていくか考えていかねばなりません。さらに東広島には、大学や研究機関が集積し、さまざまなレベルの企業さんが揃い、社会や経済の好循環をつくっていける土壌が整っています。これらをうまく活用していけば、おのずとSDGs達成が叶うのではないでしょうか。
松島
中村理事がおっしゃった近江商人の話ではないですが、どのSDGsゴールも自分だけではなく、みんなの利益につながるものですよね。私たち公務員は、市民やまちのため、誰かのためにと思って業務に邁進しています。今後もこの精神を忘れず、日々の仕事を通じてSDGs達成に貢献できればと思います。
鈴木
色々なところの力や知見を借りながら、もちろん部局同士の横の連携も大切にし、1+1が倍になるような動きで、目標達成に向けて前進していきたいですね。