次世代につなぎたい平和への取組み
司会
はじめに皆さんの普段の業務内容を教えてください。その中で、SDGsの達成に関わるようなものはありますか。
上田
総務部は政策推進監やDX推進監などの独立した部署のほか、議案や条例の審査、平和への取組みや個人情報の保護などを行う「総務課」、災害対策や防犯についての業務を行う「危機管理課」、職員の勤務形態などに関わる「職員課」、公共事業の契約・検査に関わる「契約課」と「検査課」、そして、市長・副市長の秘書業務等を担う「秘書課」の6つの課で構成されています。今日は、総務課と職員課から、SDGsに関係するお話をしようと思います。
大石
まず、総務課で行っている業務のうち、SDGsゴール「16平和と公正をすべての人に」の達成に関わるのが、平和への取組みだと考えています。昭和60年からスタートした東広島市原爆被爆資料保存推進協議会主催の「平和学習バス」は、特に子どもたちの平和への意識を高めるのに大きな役割を担っています。本年度は市内45校の小学校から一人ずつ代表が参加し、午前は戦没者追悼式に出席、午後は平和記念公園へ行きました。伝承者から戦争について話を聞いたり、資料館を通じて被爆の実相を知ることで、平和について考える機会を創出します。今年は賀茂高校の生徒さんが平和記念公園でのガイド役を買って出てくださり、年齢の近いお兄さんお姉さんが話をすることで、より子どもたちの心に響くものがあったのではないかと思います。
村上
賀茂高校では長く平和についての学習を行っているので、自分たちが学びを深めるのと同時に、さらに若い世代へその学びをつないでいくという狙いもあったんじゃないかと思います。平和学習バスについても夏の平和学習の一環として各校が参加し、8月6日の登校日の際に、その内容を皆で共有して振り返り学習に用いるところが多いようです。
大石
伝承者の高齢化が顕著になり、伝えていくことが難しくなっていく中で、若い人たちが戦争の悲惨さや平和の尊さについて受け継ぐのは、本当に大事なことだと思います。そういった意味で子どもに対しての取組みが多いのですが、平和学習バス以外にも、学校や地域で平和に関するパネル等を展示する巡回原爆展や被爆体験者の伝承講話など、さまざまな事業を展開しています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や核兵器の使用示唆について抗議文を出したりもしています。
村上
あとは、サンスクエアの原爆被爆資料展示室のリニューアルも実施しましたよね。
大石
そうですね。今までは原爆被害に遭われた方の写真や遺物展示が中心だったのですが、リニューアルを機にストーリー性のある展示内容に一新しました。展示物の説明だけではなく、どんな人が、どういう経緯で被ばくして、その後どのような生活をしたかなど、人の想いや物語を伝えられるような仕様にしています。ぜひ市民の皆さんに、お越しいただきたいと思います。
男女共のびのびと働ける職場環境に
上田
それから職員課で行っているのが、働き方改革や職員の採用について。より良い職場環境がつくれるような取組みを色々と行っています。今年10月に育児休業法が改正されたのをきっかけに、東広島でも職場環境の改善がより加速的に行われるようになりました。
村上
東広島市長による「イクボス宣言」もあったんですよね。
上田
はい。これは「職員の仕事と家庭の両立を応援しながら、組織としての成果も出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむ“イクボス”となります」ということを、公に宣言するものです。広島県では、湯崎知事が最初に宣言を出されました。
村上
今後、この宣言に伴う取組みとして、特に男性職員の育児休暇の取得促進、東広島市内の各企業や事業所に向けたワークライフバランス講座の実施や研修講師の派遣などを検討しています。
上田
先日、公共事業の工事契約の説明会があったので参加してきたんですが、建設業界でも担い手不足の解消のため働き方改革を進める必要があるんですね。工期などの兼合いから業界ではなかなか制度が広がらないという課題があると思うのですが、まずは行政から、改革を進める姿勢を見せたいですよね。国が工事における週休二日制度の導入を検討する中で、発注者となる市としても後押しをしていきたいです。
村上
市民の皆さんに啓発を行いつつ、「男性も育児参加するのは当然」という雰囲気を醸成していけたらと思います。職場の雰囲気も、一昔前とは随分変わってきましたよね。以前は男性職員が育児休暇を取っても一週間とか…。最近では少しずつ、半年取ってみようとか、一年取ってみようという職員も出てきて。僕自身は、育児休暇は取りませんでしたが、子どもの学校行事などの時は必ずお休みをいただいていました。
大石
そのあたりは私たちの年代と若い世代では、随分意識が違いますよね。私たちが若い頃は、「遅くまで働くのがすごい」というような風潮があったから…(苦笑)。少しずつ意識変換していくのが結構大変だったんですよね。でも今では、早く帰れる時には早く帰るということを徹底しています。日本はジェンダーについての意識が世界的に見ても遅れている面があるし、一人一人が意識を高く持って、改革に臨むのが大事かなと思います。
上田
男性職員の育児休暇取得については、実際に取った人の声を掲示板で紹介するなどの取組みを行いたいんですよね。実際に取ってみたらどうだったのか、メリットや困難に感じた点など、生の声を伝えることで、その後に取得したいと考える人の参考になると思うんです。
村上
確かにそうですよね。実情を知ることで、「お互い様」の空気が醸成されるというか。周りも、子育てをする人の応援をするような空気を自然とつくりたいですよね。そうなると、我々自身も働き方の効率化を真剣に考える必要があると思いますし、テレワークや時差出勤などを取り入れて、柔軟な働き方をしていかないといけませんね。また、女性のキャリアアップについても課題かなと考えています。職員の約35%は女性なのですが、管理職となると随分数字が下がるので…。本来であれば、同じくらいの割合になるべきだと思うんです。
上田
私が市役所に入って40年近くが経ちますが、男女平等についての意識も結構変わったなと思いますよ。現在は管理職に就いている女性職員も増えてきたので、男性だけではなく、色々な声を聞いて行政が進むべき道が決まっていくといいなと思います。市民生活についてもそうですが、誰もが自分の考えを自由に述べることができる、のびのびとした組織、のびのびとしたまちを目指していきたいですね。
多様性を認め合い地域共生社会を実現
司会
諸々の取組みを行う中で、まちに何か変化は見られましたか。これからのビジョンや、SDGsについて思うところがあれば聞かせてください。
村上
つい最近採用試験があったのですが、広島からだけでなく、愛媛や岡山やもっと遠方からも応募があったんですよね。で、何で東広島を選んだのか尋ねたら、「人口も増えているし、先進的な取組みをしているまちで期待感があります」と。非常にうれしく感じましたね。また、新しく入った職員さんには、毎年必ず子育て支援の制度をあらためて伝えるようにしています。制度的には恵まれている職場だと思うので、ぜひ活用して、自分らしいワークライフバランスを叶えてほしいと思います。
上田
諸々の取組みを進める中で、東広島はあらためて、学生や外国人や研究者や色々な人が暮らす多様性のあるまちで、共生意識があり、そういうところが期待感につながっているのかなと感じました。自分自身も、やっている業務内容は変わらないんだけど、このやっていることこそがSDGsにつながっているんだと気付くことも多く、公務に携わる人間の一人として原点にかえれた思いです。
村上
災害やコロナや、予期せぬ対応で業務が繁忙になることもありますが、今後も、“明るく・楽しく・働きがいのある”職場環境を構築していきたいですね。そして、市民の皆さんが、当たり前のように、仕事も生活も子育てもきちんとできる、そういうまちづくりに貢献していきたいです。
大石
以前、長崎の平和についての番組を観ていた時か何かに、「微力だけど無力じゃない」っていう言葉が出てきて、非常に感動したんですよね。いい言葉だなぁって。今、SDGsという概念が認知されたことで、皆で目指す世界の方向性が一致したわけですよね。これからも、“微力だけど無力じゃない”という気持ちを胸に、市民の皆さんと一緒に歩んでいけたらと思います。
上田
皆さんがおっしゃったように、組織内は風通し良く、同じ目標に向けてベクトルを合わせ、少しずつ進んでいきましょう。そして、色々な職員がいる中で、それぞれの個性や多様性を認め合いながら、市民の皆さんや企業、事業者の皆さんと手を取り合って、地域共生社会を目指していきたいですね。