“住み続けたい”と思ってもらえるまちに
司会
皆さんの普段の業務内容と、それがSDGs達成にどう寄与しているかを教えてください。
栗栖
私たちの担当は形式的には総務部に入っていますが、それぞれが独立して動いています。SDGsに係るプロジェクトを含め、全体のさまざまな企画や計画に携わっているのが「政策推進監」です。
橋本
「DX推進監」はデジタル化を進めたり統計業務を行う担当です。昨年度から名称が変更になり、それまでは内部のIT化に注力していました。現在は市民向けサービスに力を入れていて、その代表的なものとして「市民ポータルサイト」があげられます。市民ポータルサイトとは、インターネットにより市民と市役所や学校をつなぐ新たな行政サービスの窓口のことで、市民の多くが利用してくれています。例えば保育所の連絡帳をアプリに変更したり、母子手帳の電子化などです。各学校の情報も専用サイトを通じて発信しているので、変化を実感している方も多いのではないでしょうか。
細谷
私が在籍する「広報戦略監」は、広報活動ですね。広報紙やSNS等を通じての情報発信、あるいは記者会見などの報道対応、これらを通して市のイメージの構築にも関わっています。
栗栖
私たちがやっていることは、もともとがSDGsの達成に寄与するものだと思っていますが、とくに当てはまるゴールをあげるとするなら「4.質の高い教育をみんなに」「8.働きがいも経済成長も」「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」「10.人や国の不平等をなくそう」「11.住み続けられるまちづくりを」といったところでしょうか。そもそもSDGsの概念を行政のベースにと考えた発端は、市の最上位計画である第五次東広島市総合計画(R2~R12)の策定にあります。東広島は国が進めるプロジェクトである「SDGs未来都市」に選定されているのですが、昨今の民間企業も成長のための事業展開の根底にSDGsを取り入れています。行政も、SDGsの概念をどんどん取り入れていかないと、“住み続けたいまち”として選んでもらえなくなるんじゃないか。そういうところをスタートにして、総合計画策定の際にSDGs達成を“目指すまちの姿”として掲げることにしました。
橋本
行政としては、“このまちにあるものをあげていき、どんな目標が狙えるか”ではなく、“理想や目標を先に決めて、それを実現するためにどう動くか”というバックキャスト※の考え方を用いているんですね。そのためには、まずあらゆるものを“見える化”しないといけない。その道具のひとつがDXだと思うんですよ。
※バックキャスト …… 未来に目標を設定し、そこを起点として現在にさかのぼり何をすべきか考える方法。
基本理念は“誰一人取り残さない”こと
司会
今やっている業務の詳細や、これからしようと思っている取組みがあれば教えてください。
橋本
先ほどお話しした市民ポータルサイトですが、世代によってデジタルに対する反応スピードが違うんですよね。若い世代は、当然のようにスマホを持っていて、さまざまなツールやアプリにすぐに対応できる。一方で、少し説明すればある程度いじれる世代、苦手意識を持つ世代、そもそもデジタルを必要としない世代と、世代間ギャップがあるんです。「DXを進めますから皆さんついてきてくださいね」ということではなく、苦手な人にはサポートを、必要としない人には代替の情報発信を、そこを考えるのも我々の仕事だと感じています。
細谷
そこに関しては、広報としても同感です。私たちが大事にしているのは、アクセシビリティ(利用しやすさ、使いやすさ)。誰もが、支障なく情報を得られるよう、わかりやすさを第一に心がけています。例えば東広島は、留学生や技能実習生など、外国人住民の割合がほか市町に比べて多いですよね。ホームページでの生活情報の多言語対応などには長く力を入れています。
橋本
今後は市民ポータルサイトでも自動翻訳ができるような仕組みを作っていきたいですね。それから情報発信ってとかく過多になりがちなので、より細分化する必要があると思っていて。人によって必要な情報って違いますよね。土砂災害危険区域に住んでいる人にアラートを出したり、すでに運用しているものもありますが、今後は年代や家族構成、住む場所に応じ、必要な情報を必要な人に届けるシステムに強化したいです。
栗栖
今お話ししたような、これらすべてを着実に進めてくことが、SDGsの達成につながると思うんですよ。そして我々だけでなく、市民の皆さんと一緒に、全体でSDGs達成への意識が高いまちづくりを行っていきたいです。
細谷
これからは、より個々のニーズにあった情報をわかりやすく発信していくことが必要になってきそうですね。以前よりも市民の皆さんのSDGsに対する意識は変わってきているような気がするんですけど、どうでしょう。
橋本
それはありますよね。小中学生なんかはそもそもSDGsネイティブですし、関心を持つ人が多くなったなと感じます。パートナー制度(持続可能な社会実現に向け、行政とタッグを組んでSDGs理念の普及と目標達成の取組みを推進する企業や団体を募集する制度)への応募も増えてますしね。
SDGs達成で育まれるシビックプライド
司会
SDGs達成のために個人的に取組んでいることがあれば教えてください。また、SDGs未来都市に選定され、東広島はこれからどのように変わっていくとお考えですか。
栗栖
僕はスーパーやコンビニで手前取りを実践してますよ。あとは普段からエコバッグを持ち歩いたり、なるべく地元のものを購入したり。細谷さんと橋本さんは何かしてる?
細谷
私は生ごみをたい肥にして有効活用しています。
橋本
うちは自宅に蓄電池の設備を導入しました。それで極力電気を使わないようにしようと思って。
栗栖
SDGsって平和とか貧困の問題とか、内容が高尚で自分とは遠いことのような気がしてしまうけど、意外とそうでもないと思います。僕は「SDGsって身近に感じられない」っていう人には、「SDGsが達成された世界と達成されていない世界、どっちが幸せだと思う?どっちの世界で暮らしたい?」って質問します。そう聞くと、たいていの人が達成された世界を選びますよね。だったら日頃の生活の中で意識してみませんかと。それが自分事としてSDGsを身近に考えるってことなんじゃないのかな。
細谷
自分の行動がSDGsにつながっていることに気づいていない人もいると思います。高齢の方とか、SDGsって言葉が浸透していなかったりするけど、普段から「もったいない」ってものを大切にする心を持っている人は多いと思いますし。
栗栖
先ほど話に出たパートナー制度、これからはこの制度をもっと活用してもらいたいです。SDGsは一人では達成できません。SDGsについて先進的な考え方を持っている民間企業さんがたくさん存在する。そういうところと力を合わせて、ただのボランティアではない、お金もきちんと生み出せてSDGsに貢献できるような、そういう社会の枠組みを考えていかないとなって思います。
橋本
そうですよね。DXに関しては、地域の課題とベンチャーをつなげ、課題解決をしていく必要があると思っています。色んなものを回していくという意味で「トルク」と呼んでいるのですが、この取組みを昨年秋から行っているんです。これをつなげたりとか、認知してもらう仕事は細谷さんが担当してくれるのかな(笑)。
細谷
そうですね(笑)。さっき言った、必要なものしか買わないとか再利用やリサイクルするなど、そういう動きがSDGsにつながってるんだよって伝えることもそうですし、トルクのような一歩先行く動きが出て来てるんだよってことを、もっと皆さんに知っていただきたいと思います。
SDGsの取組みは、市民や企業、団体の皆さんとともに進めていくものですので、東広島市の取組みをもっと知っていただき信頼関係に基づくまちづくりが進むよう努めていきたいです。
栗栖
東広島は大学や研究機関が集積され、国際的な多様性もある。そこがSDGs未来都市に選定された大きな理由のひとつだろうし、まちの魅力でもあると思う。市民の皆さんと一緒になって、国際研究拠点であるという利点を生かしながらSDGs達成を目指し、同時に皆さんの中に“東広島ってなんだか進んでるよね”って感じてもらえるような、シビックプライド※が育まれるとうれしいなと思います。
※シビックプライド …… 地域をより良くするために自分自身がまちづくりに関わっているという責任感。