暮らしや環境、人権問題まで対応
司会
はじめに、皆さんの普段の業務と、それがSDGs達成にどう関わっているかを教えてください。
中村
私たちが所属する「生活環境部」は「市民生活課」「市民課」「廃棄物対策課」「環境先進都市推進課」「人権男女共同参画課」の5つの課に分かれています。市民課では戸籍や住民票に関すること、近年ではマイナンバーカードの手続きも行っているので、市民の皆さんに馴染みのある課だと思います。そのほか、法律相談や消費生活センターに関わる市民生活課、ごみの減量化・リサイクル、不法投棄対策に関わる廃棄物対策課など、暮らしに直結する業務を担当しています。
水戸
環境先進都市推進課は、自然環境の保全や地球温暖化対策等を担当しています。火葬場、墓地等の管理、浄化槽にまつわる諸々の業務も私たちの仕事ですね。近年は地球温暖化対策や脱炭素の取組みに力を入れていて、再生可能エネルギーの導入診断や、省エネのための設備投資に関わる事業者さんへの情報提供や支援といったことを行っています。市民の皆さんに対しては、「こまめな消灯を行いましょう」「ひとつの場所で冷暖房を使いましょう」「公共の交通機関を使いましょう」というようなCOOL CHOICE(賢い選択)の啓発を、イベントなどを通じて行っています。
中川
人権男女共同参画課は、人権啓発や女性の活動支援などが主な業務で、「エスポワール」という男女共同参画推進室の運営も行っています。SDGsでいうと「5ジェンダー平等を実現しよう」に深くかかわっています。「ジェンダー」とは日本語で、「文化的・社会的に作られた性別」と訳されます。「男だから」「女だから」と無意識に役割を決めつけることで、偏見や差別、不平等が生まれます。今の社会では、男性の役割・女性の役割など、個人ではなく「性別」によって生き方や働き方が決められてしまうことがあります。そこでジェンダーを問い直し、偏見や不平等をなくそうという取組みを行っています。
中村
私たちの業務を通じて達成できるSDGsゴールは、廃棄物対策課であれば「12つくる責任 つかう責任」、環境先進都市推進課であれば「7エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や「13気候変動に具体的な対策を」、人権男女共同参画課だったら「5ジェンダー平等を実現しよう」と多数あるのですが、当てはまるものがそれだけということではなく、相互で関連していると考えています。例えば温暖化対策を進めることが、砂漠化のストップや農産物の生産を助けることになり、ひいては「2飢餓をゼロに」「1貧困をなくそう」につながりますよね。そしてさらに、その達成が「16平和と公正をすべての人に」へつながると思うし。すべては関連していると思っています。
SDGsの達成を多方面からアプローチ
司会
SDGsゴール達成に向けた、具体的な取組みがあれば教えてください。
水戸
省エネ診断に関しては、事業者さんや企業さんに対する専門家の派遣、サポートといったことを行っています。また、「ひがしひろしま環境フェア」を毎年行っていますが、現地での開催に加え、近年ではオンラインも活用しています。令和2年度からは、eスポーツに携わっている事業者さんにお願いして、サイト上にゲームのコンテンツを組み込みました。若い世代にも環境問題について訴求できればいいなと考えています。また、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用によるCO2の排出削減量、適切な森林管理によるCO2の吸収量をクレジットとして国が認証する制度「J-クレジット制度」も進めています。これは、自分たちが行う取組み内容や削減・吸収されるCO2排出量についてまとめて国に申請すれば、正しく削減・吸収されていると認められた場合、「J-クレジット」というものを発行してもらえます。このJ-クレジットは、ほかの企業さんに販売することが可能で、本来なら目に見えない「削減・吸収できたCO2量」という価値を可視化して、販売できるという優れた制度です。一般家庭に向けてはスマートハウス化の支援や蓄電池、エネファームといった設備の導入支援を早くから行っています。東広島の家庭における太陽光発電設備の導入率は、全国平均の約2倍に当たるんですよ。
中村
ほかにも、今年で5年目になりますが、最近行ったこととしてはフードドライブ事業が挙げられます。まだ食べられる食品を捨てないで活用するこの事業は、生もの以外の賞味期限が1ヶ月以上ある余剰食品を持ち寄っていただき、市がこども食堂や福祉施設に寄贈する取組みです。昨年は約520kgの食品を持ち寄っていただき活用できました。これをきっかけに、市民の皆さんから直接子ども食堂に提供するような動きが出てきたり、大手スーパーで食品ロス削減に向けたフードドライブ事業に取組んでいただけるようになり、皆さんの身近な活動として浸透してきたことが良かったと感じています。
中川
私は大体いつも週末に1週間分の食料の買い出しに行っているのですが、この事業のことを思い出して、この間は買い出しをやめて家の中に眠っている食品や頂き物などを探してみたんです。そしたら結構、忘れていたものがあったりするんですよね。自分の生活を一度見直すだけで、食品ロスに貢献できるんだと痛感しました。また、人権男女共同参画課では、子育て中の母親を対象にジェンダーについて考えてもらうカフェを開催しました。人形劇を通じて親子で考える内容だったのですが、「夫や親にも聞いてほしかった」というような声が多く寄せられました。12月には「人権フェスティバル」を開催し、講演会のほか、人権相談室やパネル展示を設けますし、年明けには男性向けの啓発講座も開催する予定ですので、ぜひ皆さんにも来ていただきたいと思います。
循環型社会と人権尊重が叶うまちに
司会
現在抱えている課題やその解決策、目指すまちの未来像があれば聞かせてください。
水戸
さまざまな取組みを行っていますが、行政、民間企業、市民、皆が同じような意識を共有することが一番の課題です。子ども向けに、みみずコンポストを使って堆肥をつくるというプロジェクトをしており、大人向けには、1年間の電気やガスの使用量、ガソリン購入量などを記入して家庭から排出されるCO2量を見える化する「環境家計簿」を用意しています。これを使ったワークショップもしてみたいと考えているので、そういったところから意識の醸成ができるといいですね。東広島は自然が豊かで研究機関も多く、昔ながらの生活もスマートな生活も送ることができるまち。これまで「東広島市環境先進都市ビジョン」を掲げ、次世代環境都市の構築を進めてきました。ゴミの資源化やカーボンニュートラルといった取組みで循環型社会を構築していこうという動きなのですが、東広島は山間部に行けば広い土地があって太陽光発電設備も置きやすく、利用可能な資源がたくさんあり、薪ストーブや籾殻の活用などもできるし、それと同時に都市型生活も叶うんです。新しい循環型スタイルをつくっていくのに、ふさわしいまちだと考えています。
中村
課題はやはり、ごみの減量化でしょうか。令和3年度の市民1人当たりのごみ排出量は935gでしたが、これを令和6年度までに850gに減らそうという目標を掲げています。これから忘新年会の季節を迎えますが、市民の皆さんには、ぜひ「食べ残しゼロ」を心掛けてほしいと思います(笑)。それから、東広島はSDGs未来都市に選定され、推進パートナーの登録団体も268件(2022.11.1現在)となっており、市民の皆さんのSDGsに関する意識の高さが感じられます。SDGs未来都市計画の2030年のあるべき姿として、「イノベーションが生まれ、働きがいのあるまち」「学生や外国人が定着し、活躍するまち」「質の高い教育を受けられるまち」「環境に配慮し、持続可能で住みやすく住みたくなる先端技術のまち」を掲げています。「きれいなまちづくりキャンペーン」なども行っておりますので、ぜひ皆さんの高い意識で、一緒に理想のまちづくりを行っていきましょう。
中川
SDGsのゴールを一つ一つ見ていくと、私たちが少なからず以前から取組んでいたこともあるんですね。それを“世界一丸となって達成すべき目標”として掲げたことに、大きな意義があると感じます。SDGsが目指す最大のゴールは、「世界中のすべての人が豊かに暮らし続けていける社会」だといえるし、目標のすべてに「人が生きること」が関連していて、人権尊重の考えがベースになっている思います。高齢者、子ども、女性、最近であればネット犯罪の被害者やコロナ感染者など、身近なところから差別は生まれます。一人一人が互いを尊重し、思いやりの心をもち、SDGsの理念にそった差別のない社会を実現できればと思います。